使用上の注意!
この解説は,若干長くなっている箇所もありますが,この時期は試験期間中であり,
解説講義をすることができないことを配慮してのことです。
無断複写・転載を禁じます。
国T種試験
【bR】 正解 3
【東京都特別区】
【1問】 正解 1
1 正 議員の資格争訟の裁判は,憲法上,議員の自律性を尊重し,とくに当該議院の
所属する議院が自ら行うべきものとしている(55)。したがって,これらの裁判に対して
は,たとえ議員はその裁判に不服であっても,さらに通常の裁判所に訴え出ることは
できないとするのが,通説である。
2 誤 議院は,その組織体としての秩序を維持し,会議の円滑な運営を図るために,
両議院は,各々,院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる(58U)。
したがって,議場外の行為で会議の運営と関係のない個人的行為を事由として,
それぞれその議員を懲罰することはできない。
3 誤 両議院は,各々国政に関する調査を行ひ,これに関して,証人の出頭及び証言
並びに記録の提出を要求することができる(62)だけであり,記録を押収することまで
はできない。
4 誤 両議院の議員は,法律の定める場合を除いては,国会の会期中逮捕されず,会
期前に逮捕された議員は,その議院の要求があれば,会期中これを釈放しなければな
らない(50)。したがって,法律の定める場合(院外における現行犯罪の場合:国会法33)
には,議員はその許諾がなくとも,国会の会期中逮捕されることがある。
5 誤 両議院とは,両院の議決が異なった場合,その間の妥協を図るために設けられた
協議機関をいう。そして,その会議その他の手続に関する事項は,国会法(国会法84条
以下参照)に定められている。
【2問】 正解 2
1 誤 日米安全保障条約の合憲性が問題となった,砂川事件において,判例は「条約は,
主権国としての我が国の存立の基礎に極めて重大な関係を持つ高度の政治性を有する
ものであり,その内容が違憲か否かの判断は,純司法的機能を使命とする司法裁判所の
審査には原則としてなじまず,一見極めて明白に違憲無効と認められない限りは,裁判所
の司法審査権の範囲外にある(最大判昭34.12.16:砂川事件上告審)とする。
したがって,条約が,一見極めて明白に違憲無効と認められる場合には,裁判所の審
査権が及ぶといえるので,誤りである。
2 正 違憲な解散権の行使により,議員としての身分を失い,採否を受領できなくなった者
が,任期満了に至るまでの地位の確認と,歳費の支払いを求めた事件において,その前
提として,衆議院の解散が司法審査の対象となるか争われた苫米地事件において,直接
国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為は,それが法律上の争訟となり,
有効無効の判断が法律上可能である場合であっても裁判所の審査権の外にあり,その判
断は主権者たる国民に対して政治的責任を負う政府,国会等の政治部門の判断に任され
最終的には国民の政治判断にゆだねられているとして,衆議院の解散は,司法審査の対
象とならないとするのが判例である(最大判昭35.6.8)。
3 誤 両院において議決を経たものとされ適法な手続によって公布された法律については,裁
判所は,両院の自主性を尊重すべきであるから,法案が議場混乱のまま可決された場合であ
っても,制定の議事手続に関する事実を審理して,その有効無効を判断することはできない
(最大判昭37.3.7:警察法改正無効事件)。
4 誤 大学は,一般市民社会とは異なる特殊な部分社会を形成しているから,単位認定行為の
ような内部的問題は,一般市民法秩序と直接の関係を有することを肯認するに足る特殊の事情
がない限り司法審査の対象とはならない(最判昭52・3・15富山大学単位不認定事件)しかし,
単位の不認定が,単に進級のみではなく,卒業の可否にかかわるような場合には,一般市民法
秩序と直接の関係を有することを肯認するに足る特殊の事情が認められるので,裁判所の審査
の対象に一切ならないわけではない。
5 誤 政党は,高度の自主性と自律性を与えられ自主的に組織運営をなし得る自由を保障されな
ければならないので,政党が党員に対してした処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内
部的問題にとどまる限り,裁判所の審判権は及ばない。また,一般市民としての権利利益を侵害す
る場合については,当該政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなど特段の事情がない
限りその規範に照らし,またその規範がないときは条理に基づき,処分が適正な手続にのっとって
なされたか否かの点に限って裁判所の審査権が及ぶにすぎない(最判昭63.12.20:共産党除名処
分事件)。
したがって,政党の党員処分が一般市民としての権利利益を侵害する場合,裁判所の審査権が,
一切及ばないわけではないことから誤りである。
【3問】 正解 4】
1 誤 国会は,罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため,両議院の議員で組織する弾劾裁判所を
設ける(64T)。「罷免の訴追を受けた裁判官」の中には,最高裁判所の裁判官も含まれる。
なお,弾劾事由は,@ 職務上の義務に著しく違反し,又は職務を甚だしく怠つたとき,A その他
職務の内外を問わず,裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき(裁判官弾劾法2)である。
2 誤 下級裁判所の裁判官とは異なり(80T),最高裁判所の裁判官については,任期の定めはない。
これに対して,最高裁判所又は下級裁判所の裁判官は,いずれも法律の定める年齢に達した時には
退官する(79X,裁判所法50)。
(参照)裁判所法50
最高裁判所の裁判官は,年齢70年,高等裁判所,地方裁判所又は家庭裁判所の裁判官は,
年齢65年,簡易裁判所の裁判官は,年齢70年に達した時に退官する。
3 誤 最高裁判所又は下級裁判所の裁判官は,その良心に従い独立してその職権を行う(76V)が,
その良心とは,客観的な「裁判官としての良心」をいうのが,通説である。
4 正 憲法第78条の規定は,ここに掲げられた事由以外には裁判官の罷免を認めず,裁判官が安心
して裁判に専念できるようにすることにより,その独立を確保している。
分限裁判とは,心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合に裁判官を罷免す
る制度であり,罷免される裁判官は,最高裁判所又は下級裁判所いずれかの裁判官を問わない。
この決定は,裁判所の訴訟手続によるものとされており,そのための法律として裁判官分限法がある。
5 誤 憲法が全体として司法権の独立を強化していること,また裁判官の任命資格が法律でかなり厳格
に制限されていることなどを勘案すると,明白に任命資格要件が欠如するような場合を除いて,内閣は任
命を拒否することができないとするのが通説である。
【4問】 正解 1
1 正 国賠法第1条による国家賠償の請求については,国又は公共団体が賠償の責め
に任ずるのであって,公務員が行政機関としての地位において賠償の責任を負うもので
はなく,また公務員個人もその責任を負うものではない(最判昭30.4.19)。
したがって,公権力の行使にあたる公務員の職務行為に基づく損害について,公務員
の故意又は過失による責任を前提に,国や公共団体に「代位責任」を課したものと解する
のが妥当である。本肢は,判例,及び現在の通説にも合致することから,設問文の解答条
件である「判例・通説に照らし」の部分双方の条件を満たす。したがって,本肢を正解とする。
2 誤 外国人に対する国家賠償法の適用は,日本人がその外国人の国の公務員から不
法行為を受けたとき,当該国家から賠償が受けられるときに限り認められるにすぎない
(国賠法6)。これを相互保証主義という。
3 誤 憲法第17条の国家賠償請求の規定について,通説は,プログラム規定とする見解
が従来の通説であるとされており(佐藤幸治[三版]614頁),現在は,プログラム規定
説を採用すると明言する学者は少ない。設問文が,「判例・通説に照らし」とある以上,
「通説」とは,現在の通説を意味すると考えるのが自然であるので,本肢は誤りとする。
4 誤 国会議員は,立法に関しては,原則として,国民全体に対する関係で政治的責任を
負うにとどまり,個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないとい
うべきである。したがって,国会議員の立法行為は,立法の内容が憲法の一義的な文言
に違反しているにもかかわらず,国会があえて当該立法を行うというごとき,容易に想定し
難いような例外的な場合でない限り,国家賠償法第1条1項の規定の適用上,違法の評
価を受けない(最判昭60.11.21:在宅投票制度廃止違憲訴訟)。
5 誤 国賠法第1条は,公務員が主観的に権限行使の意思をもってする場合にかぎらず,
自己の利をはかる意図をもってする場合であっても,客観的に職務執行の外形をそなえる
行為をしてこれによって,他人に損害を加えたときには,国又は公共団体に損害賠償の責
を負わせて,ひろく国民の権益を擁護することを,その立法の趣旨とする(最判昭31.11.30)。
したがって,公務員が他人に損害を加えた場合,形式上は職務行為であっても職務行為
に直接かかわりない行為であったとしても,国又は,公共団体は,賠償責任を負う。
【5問】 正解 4
1 誤 職業選択の自由は,各人が自己の選択した職業に就くことを国家により妨げら
れないこと(職業選択の自由)のみならず,各人が自己の選択した職業の遂行する自
由も含まれる。
2 誤 職業選択の自由に対する規制は,社会公共の安全と秩序を維持するという消極
的目的のために必要で合理的な限度でその規制と,経済的劣位に立つ者を保護する
ための積極的な社会経済政策の実施(福祉国家理念)の一環として,これに一定の合
理的規制とに分けることができる(最大判昭47.11.22)が,本肢では,それぞれが逆の
説明となっている。
3 誤 小売市場の許可制の合憲性については,その目的は,中小企業保護政策として
の措置として,その目的自体は合理性が認められるとし,さらに,手段,態様において
著しく不合理であることが明白とはいえないとして,合憲とするのが判例である(最大判
昭47.11.22)。
4 正 一般に営業の許可制は,職業選択の自由そのものへの制限であるから,消極的,
警察的措置である場合には,厳格に判断するのが判例の態度である。
薬事法に基づく薬局開設の適正配置規制は,不良医薬品の供給や医薬品の濫用から
国民の生命,健康に対する危険を防止するための警察的措置であるから,規制目的自体
は正当であるが,この目的はより緩やかな規制手段によっても十分に達成できるので,目
的と手段の均衡を欠くものであるから,必要かつ合理的な規制とはいえないとして,憲法
第22条1項に違反する(最大判昭50.4.30:薬事法距離制限違憲判決)。
5 誤 酒類販売の免許制の合憲性について,「租税の適正かつ確実な賦課徴収を図ると
いう国家の財政目的のための職業の許可制による規制は,その必要性と合理性について
の立法府の判断が,政策的,技術的な裁量の範囲を逸脱し,著しく不合理なものでない
限り,憲法第22条1項に違反しない」という枠組みを示したうえで,酒税法が酒類の販売
業についても免許制を採用しているのは,酒類製造者に納税義務を課し,酒類販売業者
を介しての代金の回収を通じてその税負担を消費者に転嫁するという仕組みをとっている
ことに伴うものであるから,立法府の裁量の範囲を逸脱するものではないとして,合憲と
判断するのが判例である(最判平4.12.15)。
【国税専門官】
【15問】 正解 3
1 誤 在留外国人には,憲法上,外国に一時旅行する自由を保障されるものではないから
(最判平4.11.16),一時出国した在留資格を有する外国人がその在留期間満了の日以前
に我が国に再び入国する,いわゆる再入国の自由については,原則として保障されない。
2 誤 基本的人権の保障は,権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解さ
れるものを除き,我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶ。
そして,政治活動の自由についても,我が国の政治的意思決定又はその実施に影響
を及ぼすものを除いて,その保障が及ぶ。
ただ,その保障は在留制度の枠内で与えられているにすぎないから,在留期間中の基
本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくされ
ないことまでの保障が与えられていると解することはできない(最大判昭53.10.4:マクリー
ン事件)。
したがって,法務大臣が,外国人の在留期間の更新の際に,外国人が在留期間中に行
った政治活動を消極的な事情として斟酌することも許される。
3 正 社会保障上の施策における外国人の処遇については,国は,特別の条約の存しない
限り,当該外国人の属する国との外交関係,国際情勢,国内の政治・経済・社会的諸事情
に照らした政治的判断により決定でき,限られた財源下での福祉的給付に当たり自国民を
在留外国人より優先的に扱うことも許されるから,障害福祉年金の支給対象者から在留外
国人を除外することは立法府の裁量の範囲に属する(最判平元1.3.2:塩見訴訟)。
4 誤 何人もみだりに指紋の押捺を強制されない自由を有するが,外国人登録法が定める
在留外国人についての指紋押捺制度は,戸籍制度のない外国人の人物特定につき最も
確実な制度として制定されたもので,方法としても,一般的に許容される限度を超えない相
当なものであったと認められ,憲法第13条及び第14条に違反するものでない(最判平7.12.15)。
5 誤 憲法第93条2項にいう「住民」とは,地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を
意味するから,憲法上の要請として,在留外国人に対して地方公共団体における選挙権を保
障したものということはできない。
もっとも,在留外国人のうちでも永住者等であってその居住する地方公共団体と特段に緊密
な関係を持つに至った者について,その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体
の公共的事務に反映させることは,むしろ住民自治の要請に合致するものであるから,地方公
共団体の長,その議会の議員等に対する選挙権を付与する立法措置を講ずることは,憲法上
禁止されていない(最判平7.2.28)。
【16問】 正解 4
一 本設問の事例は,北方ジャーナル事件(最大判昭61.6.11)である。北方ジャーナル 事件の
要旨は以下の通りである。
北方ジャーナル誌掲載予定の知事選挙に立候補予定者に関する記事が,県知事選挙の立
候補者である者の人格と私生活に触れるものであり,自己の名誉の侵害するおそれがあるた
め,これを予防するため,当該雑誌の販売又は頒布の禁止を命ずる仮処分を裁判 所に申請
したという事案である。
1 主権が国民に属する民主制国家では,国民が一切の主義主張等を表明し情報を相互に受領
することによって,自由な意思をもって自己が正当と信ずるものを採用することにより多数意見が
形成され,その過程を通じて国政が決定されるのであるから,表現の自由,とりわけ,公共的事
項に関する表現の自由は,特に重要な憲法上の権利として尊重されなければならない。
憲法第21条にいう「検閲」とは,行政権が主体となって,思想内容等の表現物を対象とし,そ
の全部又は一部の発表の禁止を目的として,対象とされる一定の表現物につき網羅的・一般的
に発表前にその内容を審査した上,不適当と認めるものの発表を禁止することを,その特質として
備えるものをいうから(最大判昭59.12.12:税関検査訴訟),司法権の担い手である裁判所を主体
とする仮処分による表現物の事前差止めは,検閲に当たらない。
もっとも,個人は,人格権としての名誉権を有するから,名誉を違法に侵害された者は,人格権と
しての名誉権に基づいて,侵害行為の差止めを求めることができる。
2 表現行為に対する事前抑制は,憲法第21条の趣旨に照らして厳格かつ明確な要件の下におい
てのみ許容され,差止めの対象が公務員又は公職選挙の候補者に対する評価,批判等の表現行
為に関するものである場合には,その頒布の事前差止めは原則として許されないが,@その表現
内容が真実でなく,又はAそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であって,かつ,
B被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあるときは,例外的に事前差止めが
許される。
3 そして,仮処分命令を発するに当たっては,口頭弁論又は債務者の審尋を行い,表現内容の真
実性等の主張立証の機会を与えることを原則とすべきとする。
以上が,北方ジャーナル事件のポイントである。
1 誤 ポイント 3参照。
2 誤 ポイント 2のAで,表現行為を行なった目的という表現者の主観的な意図を裁判所が行う
仮処分命令手続において考慮している。
3 誤 ポイント 1参照。 判例の採用する「検閲」概念は,「行政権を主体とするものであるから,
司法権の担い手である裁判所を主体とする仮処分による表現物の事前差止めは,検閲に当たらない。
4 正 ポイント 2参照。この判例の3要件は,刑法230条の2を参照にしていることから,一度読ん
でおくように。
(参照)刑法第230条の2(公共の利害に関する場合の特例)
T 前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ること
にあったと認める場合には,事実の真否を判断し,真実であることの証明があったときは,これを
罰しない。
U 前項の規定の適用については,公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事
実は,公共の利害に関する事実とみなす。
V 前条第1項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には,
事実の真否を判断し,真実であることの証明があったときは,これを罰しない。
5 誤 名誉権もまったく無制限に保護されるわけでなく,表現の自由との関係で一定の制約を受ける。
この調整は原則として,等価値的な利益衡量によるが,公共性のある事項につては,公益を図る目
的で真実を語ることはもちろん,当該事項にかかわる事実の真実性を推測させるに足る程度の相当
な合理的根拠・資料に基づいてなされた表現行為は,表現の自由として憲法により保障される(佐藤
幸治[三版]:452頁)。
【17問】 正解 3
1 誤 裁判所法第3条第1項の規定にいう「法律上の争訟」として裁判所の裁判の対象となるのは,
当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否であって,法律の適用により終局的に解決
しうべきものをいう。したがって,現行の制度の下では,特定の者の具体的な法律関係につき紛争の
存する場合にのみ裁判所にその判断を求めることができるのであり,裁判所が具体的事件を離れて
抽象的に法律命令等の合憲性を審査できない(最大判昭27.10.8:警察予備隊違憲訴訟)。
2 誤 憲法第81条は,下級裁判所が違憲審査権を有することを否定する趣旨を持つものではないから
(最大判昭25.2.1),下級裁判所は,具体的訴訟事件に法令を適用して裁判するとき,法令が憲法に適
合するか否かについて判断することができる。
3 正 大学は,一般市民社会とは異なる特殊な部分社会を形成しているから,単位認定行為のような内
部的問題は,一般市民法秩序と直接の関係を有することを肯認するに足る特殊の事情がない限り司法
審査の対象とはならない(最判昭52・3・15富山大学単位不認定事件)。
4 誤 条約は,主権国としての我が国の存立の基礎に極めて重大な関係を持つ高度の政治性を有するも
のであり,その内容が違憲か否かの判断は,純司法的機能を使命とする司法裁判所の審査には原則とし
てなじまず,一見極めて明白に違憲無効と認められない限りは,裁判所の司法審査権の範囲外にある(最
大判昭34.12.16:砂川事件上告審)。したがって,一見極めて明白に違憲無効と認めらる場合は,裁判所の
司法審査の対象になる。
5 誤 裁判は一般的抽象的規範を制定するものではなく個々の事件について具体的処置をつけるものであ
るから,その本質は一種の処分である。一切の処分は行政処分たると裁判たるとを問わず,終審として最高
裁判所の違憲審査権に服する。(最大判昭 23.7.8)。
(参考)裁判所法
第3条@ 裁判所は,日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し,その他
法律において特に定める権限を有する。
【東京都T類 事務専門T】
【1問】 正解 3
1 誤 皇位は世襲のものであり,皇位継承が生ずる場合は,皇室典範4条に「天皇が崩じたときは,
皇嗣が,直ちに即位する」とあることから,「不治の重患があり又は重大な事故があるときに限り,
天皇は生前に譲位することができると皇室典範に定めら れている。」との記述は誤りである。
2 誤 天皇は,日本国の象徴であり,日本国民統合の象徴であることにかんがみ,天皇には,民事
裁判権が及ばない(最判平元.2.20)。
3 正 天皇の国事に関するすべての行為には,内閣の助言と承認を必要とし,内閣が,その責任を
負ふ(憲3)。
4 誤 天皇が,内閣の助言と承認により,国事に関する行為を,皇族に委任して臨時に代行させるこ
とができるのは,@精神若しくは身体の疾患又は事故がある場合と,A摂政を置くべき場合の二つ
である(国事行為の臨時代行に関する法律第2条)。
5 誤 すべて皇室の費用は,予算に計上して国会の議決を経なければならない(憲88)。そして,予算
に計上する皇室の費用は,これを内廷費,宮廷費及び皇族費とすると規定する(皇室経済法3)。
したがって,内廷費及び皇族費は,予算に計上して国会の議決を経る必要がある。
【2問】 正解 1
1 正 幸福追求権の性格については,人格的生存に必要不可欠な権利・自由を包摂する包括的な権利
であると解するのが通説である。この場合,同一の権利について13 条の規定と13条以下に定めてい
る個別的な人権規定が競合することになるが,両者の関係については,幸福追求権の具体化規定として
個別的な人権規定が特別法として一般法である幸福追求権に優先すると考えるので,本肢は正解となる。
例えば,憲法上,詳細な規定があるが,たとえば,憲法31条を,「生命若しくは自由」につき科刑手続を
法定すべきことを求めたものと限定して解する立場に立てば,いわゆる罪刑法定主義や手続及び実体の
適正の保障は,13条の射程に属すると考える余地があり,この場合,両者の関係は一般法特別法との関
係に立つといえる。
2 誤 幸福追求権の性格について,人格的生存に必要不可欠な権利・自由を包摂する包括的な権利である
と通説が限定して理解するのは,あらゆる生活領域における行為の自由を幸福追求権として保障することは,
人権のインフレ化を招き,人権の価値を相対的に減少させることに繋がるからである。
したがって,幸福追求権が保障する権利の範囲を,散歩,自動車の運転などのあらゆる生活領域における
行為の自由まで保障していると解するのが通説であるとはいえない。
3 誤 幸福追求権から導き出される人権として,最高裁判所の判例が認めたものには,プライバシー権の他に,
環境権,アクセス権,自己決定権がある。
4 誤 「個人の私生活の自由の一つとして,何人も,承諾なしに,みだりに容ぼう・姿態を撮影されない自由を有」
するから,「警察官が,正当な理由なく個人の容ぼう等を撮影することは,憲法第13条の趣旨に反し,許されな
い」が,個人の有する右自由も,国家権力から無制限に保護されるわけでなく,公共の福祉のため必要がある
場合には相当の制限を受ける。
なお,判例は,これに続き,無断写真撮影が許容される場合について,「現に犯罪が行われ若しくは行われた
後間がないと認められる場合で,証拠保全の必要性・緊急性があり,その撮影が一般的に許容される限度を超え
ない相当な方法をもって行われるとき」は,警察官による撮影は許容されるとして,その要件をあげている(最大判
昭44.12.24:京都府学連デモ事件)。
5 誤 ノンフィクション「逆転」事件で最高裁判所は,ある者の前科等にかかわる事実が著作物で実名を使用して公
表された場合に,その者のその後の生活状況,当該刑事事件の歴史的又は社会的な意義,その者の当事者として
の重要性,その者の社会的活動及びその影響力について,その著作物の目的,性格等に照らした実名使用の意義
及び必要性を併せて判断し,「前科等にかかわる事実を公表されない法的利益」が「これを公表する理由」に優越す
る場合には,その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができるとする(最判平6.2.8)。
したがって,前科等にかかわる事実を公表されないことを明確にプライバシーの権利とは認めていない。また,表現
の自由との関係では,具体的な比較衡量の事情をあげた上で,損害賠償請求の可否を考えているので,プライバシー
権が当然に表現の自由に優越するとは判示していない。
【3問】 正解 3
1 誤 小売市場の許可制の合憲性については,その目的は,中小企業保護政策としての措置として,その目的自体
は合理性が認められるとし,さらに,手段,態様において著しく不合理であることが明白とはいえないとして,合憲とす
るのが判例である(最大判昭47.11.22)。
したがって,小売市場開設の許可規制が消極的・警察的目的の規制であると認定したとする点が誤りとなる。
2 誤 一般に営業の許可制は,職業選択の自由そのものへの制限であるから,消極的,警察的措置である場合には,
厳格に判断するのが判例の態度である。
薬事法に基づく薬局開設の適正配置規制は,不良医薬品の供給や医薬品の濫用から国民の生命,健康に対する
危険を防止するための警察的措置であるから,規制目的自体は正当であるが,この目的はより緩やかな規制手段に
よっても十分に達成できるので,目的と手段の均衡を欠くものであるから,必要かつ合理的な規制とはいえないとして,
憲法第22条1項に違反する(最大判昭50.4.30:薬事法距離制限違憲判決)。
3 正 酒類販売の免許制の合憲性について,「租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のための
職業の許可制による規制は,その必要性と合理性についての立法府の判断が,政策的,技術的な裁量の範囲を逸脱し,
著しく不合理なものでない限り,憲法第22条1項に違反しない」という枠組みを示したうえで,酒税法が酒類の販売業に
ついても免許制を採用しているのは,酒類製造者に納税義務を課し,酒類販売業者を介しての代金の回収を通じてその
税負担を消費者に転嫁するという仕組みをとっていることに伴うものであるから,立法府の裁量の範囲を逸脱するもので
はないとして,合憲と判断するのが判例である(最判平4.12.15)。
4 誤 1989年の公衆浴場距離制限事件では,公衆浴場法による適正配置規制は,「公衆浴場業者の廃転業を防止し,
健全で安定した経営を行えるようにして国民の保健福祉を維持しようとするもの」であり,積極的,社会経済政策的な規
制目的に出た立法であるから,立法府のとった手段がその裁量権を逸脱し,著しく不合理であることが明白でない以上,
憲法に違反しない(最判平元.1.20)。
5 誤 西陣ネクタイ事件では,生糸の一元輸入措置及び価格安定制度を定める法律は,積極的な社会経済政策の実施の
一手段として個人の経済活動に対し一定の合理的規制措置を講ずるものであり,立法府がその裁量権を逸脱し,当該規
制措置が著しく不合理であることが明白でないから,憲法に違反しない(最判平2.2.6)。
【4問】 正解 3
1 誤 租税法律主義は,納税義務者,課税物件,課税標準,税率などの課税要件及び,租税の賦課・徴収の手続が法律
で定められなければならないことを意味する。
2 誤 租税には,一旦法律で定めた後は変更がない限り,毎年引き続いて租税を徴収しうるとする永久税主義と,毎年議会
の議決を要するとする一年税主義とがある。明治憲法は,明文で永久税主義によるとあったが(明63),日本国憲法にはこ
の点について明示規定はないが,永久税主義を排除する趣旨ではない。
3 正 パチンコ球遊器事件で最高裁判所は,パチンコ球遊器に対する物品税の課税がたまたま通達を機縁として行われた
ものであったとしても,通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上,それに基づく課税処分は法の根拠に基
づく処分であり違憲ではないとした(最判昭33.3.28)。
4 誤 地方公共団体の「行政を執行」する権能には財政高権も含まれていること,租税法律主義の趣旨は,行政権による専
断的な課税を防止することにある以上,民主的な手続によって制定された条例は「法律」に順ずるものと解し得るから,地方
公共団体が条例によって地方税を賦課・徴収することも許される。
5 誤 租税法律主義(84)にいう「租税」の意味については,学説上争いがある。
租税とは,一般に,国または地方公共団体が,その経費にあてるために,国民に対して一方的・強制的に無償で徴収
する金銭をいい,それが憲法84条にいう「租税」の内容をなすことには争いはない。
さらに,憲法84条の「租税」の中に,負担金・手数料・国の独占事業の料金など,国民の自由意思に基づかないで一方
的に賦課される金銭も含まれるかという問題に対して,従来の通説は,これを広く解し,肯定していた。そして,財政法3条
は,憲法84条の趣旨を確認したものと解してきた。
したがって,この見解を前提にすると全ての負担金,手数料,国の独占事業の料金は,法律の定め又は国会の議決を経
て決定・改定されなければならないともいえそうである。
もっとも,この見解を前提にしても,財政法3条は,その妥当範囲を限定した「財政法第三条の特例に関する法律」のため
に実質的に機能していない。たとえば,一方的に賦課・徴収される負担金や加入を強制される社会保険を84条の「租税」に
含めることができるとしても,専売価格や独占的事業料金については,憲法83条による国会のコントロールを受け,しかもそ
れは基本的な事項に関する決定にとどまり,詳細は主務大臣等の決定に委ねてよいとされている。
したがって,この立場に立ったとしても,全ての負担金,手数料,国の独占事業の料金は,法律の定め又は国会の議決を
経て決定・改定されているわけでないので,誤りとなる。
これに対して,最近では,憲法84条の「租税」を限定的に解し,負担金・手数料・専売価格などが法律で定められなければ
ならないとしても,それは84条によるのではなく,むしろ憲法83条の原則規定によると解すべきとする説が有力である。
この立場によれば,理論的にもすべての負担金,手数料,国の独占事業の料金は,法律の定め又は国会の議決を経て決定
・改定される必要はなく,現在の運用にも合致するので,本肢は,やはり誤りとなる。
(参照: 財政法3条)
租税を除く外,国が国権に基いて収納する課徴金及び法律上又は事実上国の独占に属する事業における専売価格
若しくは事業料金 については,すべて法律又は国会の議決に基いて定めなければならない。
【5問】 正解 2
1 誤 国会による承認を要する「条約」とは,広く文書による国家間の合意を指し,条約,協定,協約などの名称如何を問
わず,いずれもその成立には,国会の承認を要する。なお,条約の中でも既に成立している条約の執行ないし委任条約
にあたるものは,国会の承認を要しないことに注意すること。
2 正 憲法62条2項は,61条1項を準用していないから,内閣が国会に条約案を提出するにあたっては,衆議院の先議は
必要でない。そして,条約について,参議院で衆議院と異なつた議決をした場合には,61条2項の規定を準用していること
から,条約の承認の議決については,衆議院の優越が認められている。
3 誤 国会は,条約案について修正付き承認をすることができるかについて争いがあるも,仮に肯定する見解に立ったとし
ても,修正された内容で条約が直ちに法的効果をもつものではなく,相手国との同意があってはじめて修正内容が法的効
果をもつようになるので,誤りである。
4 誤 条約の国内法としての効力は,憲法第98条2項が条約の誠実な遵守を要求し,また,憲法第7条1号が,天皇が,
「条約」そのものを公布するとしていることから,条約が法律と抵触する場合には,条約の効力が法律の効力に優先する
と解するのが通 説である。
5 誤 砂川事件判決で最高裁判所は,日米安保条約は,主権国としての我が国の存立の基礎に極めて重大な関係を持
つ高度の政治性を有するものであり,その内容が違憲か否かの判断は,純司法的機能を使命とする司法裁判所の審査
には原則としてなじまず,一見極めて明白に違憲無効と認められない限りは,裁判所の司法審査権の範囲外にある(最
大判昭34.12.16:砂川事件上告審)。この判例で,裁判所は,一見極めて明白に違憲無効である外観を呈しているとは
認めておらず,本肢は,誤りである。
なお,仮に日米安全保障条約が一見明白に違憲無効である外観を呈するならば,司法審査の対象になるとするのが
本判例の重要な部分であるから,かかる判例の事案を知らなくとも本肢が誤りであると分かる。