51 同時履行の抗弁権



1  Aは,Bに対しA所有の土地を代金1億円で売却した。Aが代金を受領し,Bが所有
 権移転登記名義を取得した後,Aは,売買契約を第三者の詐欺を理由として取り消し
 た。 この場合において,Aの代金返還義務は,Bの所有権移転登記の抹消登記義務
 と同時履行の関係にない(143A)。


2  Aは,Bに対し1億円を貸し付け,Bはその支払いを確保するため,小切手を交付した。
 この場合において,Aの小切手返還義務は,Bの貸金返還義務と同時履行の関係にな
 い(143C)。


3  家屋の賃貸借終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返済債務とは,特別
 の約定のない限り,同時履行の関係にある(142A)。


4  Aは,Bに対しA所有の建物を賃貸し,Bから敷金を受け取った。その後,賃貸借契約は,
 期間満了により終了した。この場合において,Aの敷金返還義務は,Bの建物明渡義務と
 同時履行の関係にある(143B)。


5   Aは,Bに対しA所有の建物を代金500万円で売却した。この場合において,Aの建物引
 渡義務は,Bの代金支払義務と同時履行の関係にあるが,Aの建物所有権移転登記義務
  は,Bの代金支払義務と同時履行の関係にない(143D)。


6  Aは,Bに対して1億円を貸し付け,Bは,その債務を担保するため,B所有の土地に抵当
 権を設定し,その旨の登記手続をした。この場合において,Aの抵当権設定登記の抹消登記
 義務は,Bの貸金返還義務と同時履行の関係にない(143@)。


7  同時履行の抗弁権が付着した期限付債権の消滅時効は,同時履行の抗弁権がなくなり,
  権利行使についての法律上の障害が取り除かれた時から進行する(48D)。


※※※※※※※※※※※※※※※※ 解 答 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

1  詐欺による取消しを原因とする原状回復義務のケースで,判例は同時履行関係を肯定している
  (最判昭47.9.7)(143A)。


2  貸金債務の支払確保のため小切手が交付された場合,判例は,特別な事情のない限り,債務者は小切手
 の返還と弁済との引換履行を主張できるとする(最判昭33.6.3)。(143C)。


3  賃借人の賃貸人に対する敷金返還債務と家屋の賃貸借終了に伴う賃借人の家屋明渡債務は,特別の約定
 のない限り,同時履行の関係に立たない(最判昭49.9.2)。なぜなら,賃借人の敷金返還請求権は,賃借人が
 賃借物を返還した時に発生するため,敷金返還債務に対して賃借人の家屋明渡債務は,先履行の関係にある
 からである(142A)。


4  判例は,敷金返還請求権は賃借人が賃借物を返還したときに発生するため,敷金返還と賃借物の返還の同
 時履行を賃借人は主張できないと解している(最判昭49.9.2)。(143B)。


5 代金支払義務と登記移転義務について,判例は,同時履行の関係に立つと解している(大判大7.8.14)(143D)。


6  正しい。債務の弁済と当該債務を担保するために設定された抵当権設定登記の抹消登記手続とは,前者が後者
 に対し先履行の関係にあるものであって,同時履行の関係に立つものではない(最判昭57.1.19)。(143@)。


7  同時履行の抗弁権(533)は法律上の障害ではない。同時履行の抗弁権とは,履行関係の衡平性維持のために
 履行の拒絶が債務不履行に陥らないとするだけであって,権利を行使しうる状態にあることには変わりはない。よっ
 て,それが付着した債権でもこれとは無縁に時効が進行する。(48D)。